INSIDE ORIGIN|後藤 充暁(cojigoro)

インタビューコンテンツ「INSIDE ORIGIN」第12回のゲストは、愛知県豊川市の住宅街にありながら、日々多くの人が足を運ぶスパイスカレーの店「cojigoro(コジゴロ)」の店主、後藤充暁(ミッチー)さん。
建築関係の仕事から一転し、カレー屋の店主という道を選んだミッチーさん。お店をオープンするまでのストーリーをはじめ、日々の営みの中で育まれてきたカルチャーへの視点、そして今回着用していただいたPATRICKのシューズについてもお話を伺いました。
Photo_Yusuke Hosoi
Edit_Toshihiro Otake
後藤充暁[cojigoro 店主]
大学で建築を学んだ後、住宅メーカー等の勤務を経て飲食業界へ転身。「おじいちゃんになってもカッコよく働ける喫茶店のマスター」に憧れ、コーヒーと共に独学でスパイスカレーの探求を始める。
移動販売やイベント出店での下積みを経て、MOROHAの楽曲『四文銭』の歌詞に背中を押され実店舗を開業。
コーヒーの「カッピング(風味分析)」理論を応用した自由な発想のカレーと、自身の愛する音楽・ファッション・サブカルチャーを詰め込んだ空間で、地域の人々の「サードプレイス(日常の避難場所)」を作り出している。

ー 豊川で「cojigoro(コジゴロ)」を営むミッチーさんご自身について教えてください。
ミッチー:元々は大学で建築を学び、住宅メーカーや建材屋で働いていました。でも、そこがいわゆるブラック企業で...。毎日擦り減っていく日々に「このままでいいのか?」と虚無感を感じてしまって(笑)
そんな時、ある仕事場で辛い表情を浮かべて働くお年寄りを見て、「自分には無理だ」と思う反面、「喫茶店のマスターなら、いくつになってもカッコよく働けるんじゃないか?」と、ふと思ったんです。それが、この道に進む全ての始まりですね。
そこから30歳手前にしてコーヒーの修行を始めるのですが、当時はまだサードウェーブコーヒーの前夜。コーヒー一本で勝負するのは経営的に厳しいなと感じ、何か軸になるフードが必要だと考えた時に、「カレーならスパイスを混ぜるだけでできるかも?」と、これまた安直に始めてしまいました(笑)
その後、移動販売やイベント出店を重ねていたものの、「いつか店をやりたいけど、今はまだ...」とモヤモヤ足踏みをしていました。そんなある日、車の運転中にふとステレオから流れてきたMOROHAの『四文銭』という曲。
「『チャンスがねぇ』と嘆いてるお前へ」「今すぐプレイヤーの停止ボタンを押して、お前はお前のやるべきことをやるんだ」
この歌詞に背中を蹴飛ばされるように押され、覚悟が決まりました。 そうして愛知県豊川市に今のお店「cojigoro」をオープン。店舗を構えた今でも、原点であるイベント出店には精力的に参加しています。

ー コジゴロのお店のテーマやコンセプト を教えてください。
ミッチー:「日常の避難場所(サードプレイス)」であり、カレー屋という枠を超えた「カルチャーの交差点」であることです。
一番の根底にあるのは、家でも職場でもない「サードプレイス(第三の居場所)」でありたいという思いです。
僕自身、過去に過酷な労働環境で働いていた経験があるからこそ、忙しい日々の合間にふっと息抜きができる「オアシス」や「シェルター(避難場所)」のような場所を作りたいと思いました。また、単にカレーを食べるだけの場所にはしたくありません。
僕が好きな「音楽・ファッション・サブカルチャー」を空間全体にミックスさせています。カレー屋だけどアパレルショップや遊び場のような感覚で、あえて「お洒落すぎず、少しアンダーグラウンドでごちゃっとしたDIY感」を残すことで、大人の秘密基地のようなワクワク感を感じてもらえたらと思っています。
都会への憧れもありましたが、今は「ローカル(豊川)だからこそできる面白さ」を大切にしています。自由な発想のスパイスカレーと、独自のカルチャーをごちゃ混ぜにした、豊川の街の「文化的なハブ」のような存在でありたいですね。

ー 店内の居心地や本・音楽・雑貨のセレクトからカルチャーへのこだわりが感じられます。何か意識されていることはございますか。
ミッチー:意識しているのは、ヴィレッジヴァンガードのような「ごちゃ混ぜ感」と、世代を超えて面白がれる「遊び心」です。
僕の根底には、学生時代に通い詰めた「ヴィレッジヴァンガード」の影響が色濃くあります。あのおもちゃ箱をひっくり返したようなカオス感や、サブカルチャーの危うい魅力が大好きなんです。
だから店内には、自分が青春時代を過ごした平成のカルチャーを感じさせる漫画やおもちゃなんかを置いています。あえて洗練させすぎず、「カッコつけすぎないけど、こだわりはある」みたいな絶妙なバランスが好きなんですよね。
面白いことに、最近の若い子たちが興味を持っている「Y2K」ファッションやカルチャーと、僕ら世代の懐かしさがちょうどリンクしていて。世代を超えて「これヤバいですね!」って面白がってもらえるのが嬉しいですね。
実は今、「怪談」がちょっとしたマイブームでして(笑)
そういったオカルト系のグッズや書籍も店内に忍ばせています。それに気づいたお客さんが「実は私、こんな体験して…」なんて怪談話を聞かせてくれることもあって、そこから生まれるコミュニケーションを楽しんでいます。
平成カルチャーも、怪談も、音楽も。自分の好きなものを全部鍋に放り込んで煮込んだ結果、今の「cojigoro」という独特な空間ができあがっているんだと思います。

ー 移動販売やイベント出店から店舗開業までの体験から学んだことは?
ミッチー:「カッコつける」のをやめて、「自分の弱み(隙)」をさらけ出したことで、周りが助けてくれるようになったことです。
当初は「THE 喫茶店のマスター」みたいな、シュッとしたカッコいい店主像に憧れていたんです。でも現実は泥臭い失敗の連続でした。
一番のやらかしは、移動販売時代に車の中でカレーの寸胴をひっくり返した事件ですね。シートのネジ穴から車体の裏までカレーが入り込んで、何をしても匂いが取れなくなってしまって(笑)他にも、売上金をなくしたり、大事なレシートを洗濯して紙屑にしたりと、経営者としてはあるまじき失態ばかりでした。
最初は恥ずかしくて隠していたんですが、あるイベントで一緒になった出店者さんに、もう笑い話として「実は車の中でカレーぶちまけちゃって...」とポロッと話したんです。そうしたら、相手が引くどころか大爆笑してくれて。
そこから空気が変わりました。周りの皆さんが「こいつ、カレーは作るけど中身はポンコツだな」「俺たちが助けてやらないとヤバいんじゃないか?」って、可愛がってくれるようになったんです。近寄りがたいライバル関係ではなく、人間味のある仲間として受け入れてもらえました。
一人で完璧にやろうとせず、ダメな部分を見せることで、逆に周りの優秀な人や仲間が手を差し伸べてくれる。その時にできた「助け合いの繋がり」があったからこそ、今の店舗も成り立っているんだと痛感しています。

ー カレーとコーヒーについて、こだわりや工夫を教えてください。
ミッチー: コーヒーの「味を要素に分解して捉える」という感覚を、そのままスパイスや食材の「パズル(置き換え)」に応用してレシピを作っています。
もともと喫茶店のマスターになりたくてコーヒーの勉強をしていたので、「カッピング(テイスティング)」の技術を学んでいました。カッピングでは、コーヒーの味を漠然と味わうのではなく、アロマ(香り)、クリーンカップ(透明度)、スウィートネス(甘さ)、アシディティ(酸味)、マウスフィール(口当たり)、フレーバー(風味)、アフターテイスト(余韻)、バランス、オーバーオール(総合評価)といった要素に分解して評価します。
カレー作りを始めたとき、これと全く同じアプローチができると気づいたんです。
例えば、あるカレーのレシピに「トマト」が入っていたとします。これを料理として丸ごと見るのではなく、カッピング的な視点で要素分解すると、トマトは「酸味」の役割を担っているパーツだと捉えられます。
そう考えると、「じゃあ、『酸味』というパーツさえ埋まれば、トマトじゃなくてもいいんじゃないか? レモンでもいいし、梅干しでもいいし、タマリンドでも成立するはずだ」という発想になります。
スパイスも同じです。「カレー粉」としてひとまとめにするのではなく、「香り担当」「色担当」「辛味担当」と要素を分解して捉えています。
そうやって味の要素をパズルのピースのように見立てて、「ここの酸味のピースをトマトからレモンに置き換えてみよう」「香りのピースをこれに変えてみよう」と、実験のように組み替えていくんです。
僕はインドに行ったことがないので、現地の「正解」を知りません。だからこそ、とらわれることなく、このコーヒー由来の「分解と再構築」というアプローチで、自由な発想のスパイスカレーを作ることができています(笑)

ー 今後、店舗や活動として挑戦していきたいことは、何かありますか?
ミッチー:まずは、お店を始めた当初からの想いである「サードプレイス(第三の居場所)」としての役割を深めていくことです。かつての僕のように、仕事や日常に疲れた人がふらっと立ち寄って、カレーを食べて、好きな音楽や本に触れて、「よし、明日も頑張るか」と少しだけ回復できる。そんな「日常の避難場所(シェルター)」であり続けたいと思っています。
活動としては、カレーを作るだけでなく、ファッションや音楽、アートなど、僕が愛するカルチャーをどんどんミックスしていきたいですね。 例えば、アパレルブランドとコラボしたり、店内で音楽イベントをやったり。最近ハマっている怪談もそうですけど(笑)、「カレー屋なのに何やってんの?」って面白がってもらえるような違和感や遊び心を大切にしていきたいです。
「ローカルだからこそできること」に価値を感じています。
「田舎だから何もない」ではなく、「地方でもこんなに面白いことができるんだぞ」というのを、背中で見せていきたい。そうやって楽しんでいる僕らを見て、若い世代の子たちが「自分も何かやってみようかな」と思ってくれたら最高ですね。
いつか憧れた「カッコいい喫茶店のマスター」のように、おじいちゃんになっても現場に立ち続けて、街の文化的なハブになれたらいいなと思っています。
ー 本日着用いただいているシューズは、「カリフォルニー」というモデルです。「カリフォルニー」をチョイスされた理由を教えてください。
ミッチー:もともと妻が、「PATRICK(パトリック)」の「MARATHON(マラソン)」を愛用していたのですが、僕は「マラソン」のような王道のモデルよりはちょっとハズしたモデルが好きなんです。この「カリフォルニー」は、どこかレトロでヴィンテージ感がある雰囲気がすごく良くて。僕が好きな古着や、ちょっとクセのあるアイテムとも相性がいい。
あと、僕らの世代って青春時代に「スニーカーブーム」の影響をもろに受けているので、スニーカーにはこだわりが強い世代だと思いますが、このこなれた感じのデザインは僕の気分にぴったりでした。

ー 本日のコーディネートのポイントを教えてください。
ミッチー:今日のトップスは大阪の古着屋さんで見つけた作家さんの刺繍が入った一点物で、パンツは台湾のブランドで以前同じイベントの出店時に買ったものです。わかりやすいブランドで固めるんじゃなくて、こういう「どこで買ったの?」って聞かれるような面白いアイテムを混ぜるのが好きですね。そこに足元はパトリックで、ちょっと大人っぽくもありつつ、遊び心を入れるのが自分らしいかなと。

ー 日々コジゴロを支えてくれるお客様や仕事仲間へ伝えたいことはありますか。
ミッチー:完璧ではない僕とこの店を、面白がって愛してくれて本当にありがとうございます。これからも一緒に、この街で「一息つける場所」を作っていけたら嬉しいです。 これまでの話の通り、僕は決して器用な経営者ではありません。移動販売時代には車でカレーをぶちまけたり...まだきちんとした金庫がなく、売上金をビニール袋などで管理していて売上金を紛失したり...領収書をパンツのポケットに入れたまま洗濯してしまったり...(笑)
そんな失敗だらけで「隙(すき)」しかない僕を、見限るのではなく「しょうがないなぁ」と笑って助けてくれたり、面白がって通ってくださるお客様や仲間がいたからこそ、今こうしてお店を続けられています。本当に、感謝してもしきれません。
僕が目指しているのは、皆さんが日常の疲れを癒やせる「避難場所(シェルター)」のような存在です。カレーを食べる目的だけでなく、店内の音楽や漫画、ちょっとした無駄話を楽しみに、ふらっと立ち寄ってください。最近だと怪談話を持ってきてくれる方もいて、そういった皆様とのコミュニケーションが僕自身のエネルギーにもなっています。
これからも、カッコつけすぎず、良い意味で人間味のある店であり続けたいと思っています。僕一人では何もできない店主ですが、皆さんと一緒にこの「コジゴロ」という「場」を育てていけたら幸せです。これからもどうぞ、末永くよろしくお願いします。

ー PATRICKに何かリクエストがあれば、ぜひ。
ミッチー:いわゆるコックシューズに限らず、営業中でも履けるデザイン性の高いシューズを開発していただけると嬉しいです。調理中は汚れやすいため、汚れが落ちやすい素材であることや、座席に上がる場面でもスムーズに脱ぎ履きできるなど、実用性の高い機能性を求めています。
また、靴は実際に履いてサイズ感やデザインを確かめたいタイプなので、豊富なラインナップを一度に確認できる店舗を、ぜひこのエリアにも展開していただきたいです。
ー ありがとうございます!シューズは参考にしますね!また、2024年に名古屋市栄のラシックの5Fに直営店「PATRICK LABO 名古屋」がOPENいたしました。幅広いラインナップと丁寧な接客が特徴です。
ミッチー:栄に直営店があるんですね。直営店であれば、定番モデルだけでなく、僕好みの少しマニアックなモデルや、こだわりを感じられるラインナップにも出会えそうで、とても興味があります。実際に手に取って見比べられるのも直営店ならではだと思いますので、ぜひ一度伺わせていただきたいです。

ー ぜひ、よろしくお願いいたします!ミッチーさん、本日は貴重なお話をありがとうございました!
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