INSIDE ORIGIN|加藤史人(セカンディスコ)

WEBコンテンツ「INSIDE ORIGIN」第9回のゲストは、フォトグラファーの加藤史人さん。
雑誌や広告撮影を中心に活動する傍ら、世界各地のリサイクルショップを取材し、その過程で出会ったプロダクトを自身のウェブショップ〈セカンディスコ〉で紹介・販売をされています。日常の中に息づくカルチャーやデザインの背景を探り続けるその姿勢は、写真表現にも通じる独自の視点として注目されています。
VINTAGE PATRICKを通じてヨーロッパでのPATRICK事情にも精通する加藤さん。ブランドとの出会いや、ヴィンテージコレクションを通じて感じた魅力、そして“モノ”に宿る文化について伺いました。加藤さんのインタビューをどうぞお楽しみください。
Photo_Yusuke Hosoi
Edit_Toshihiro Otake
加藤史人[フォトグラファー]
1978年、愛知県生まれ。雑誌、広告撮影を中心に活動。世界のリサイクルショップ取材をライフワークとし、その際に集めたプロダクトを、自身のウェブショップ〈セカンディスコ〉にて販売する。
@secondisco
ー まず、PATRICKとの出会いを教えていただけますか?
加藤:最初は広告だったり、雑誌から知ったのがきっかけだったと思います。僕は1978年生まれで、名古屋出身なんですが、高校生の頃がちょうど第二次アメカジブームの真っ只中で、雑誌が全盛期でした。巻末を見ると、東京のスニーカーショップがたくさん載っていたんですよ。
そこにPATRICKの様々なモデルが掲載されていて、「これは何だろう?」と。当時はフランス製がメインだったんですが、カラーリングも独特で、他のブランドとは明らかに違う雰囲気があったんです。それで近くの靴屋さんで「あれ? これPATRICKだ!」みたいな感じで手に取るようになりました。

ー そこからフランス製を中心としたヴィンテージモデルのコレクションを本格的に始めたのはいつ頃からですか?
加藤:学生時代からブランドは認識していましたが、本格的に集め始めたのは2000年代に入ってからですね。この頃からヤフオクや個人売買が一般化して、現行品じゃないモデルがたくさん出てくるようになったんです。そこから色々と探すようになりました。
当時から、どのジャンルにおいても見たことのないものや現行にないものが好きで。PATRICK以外のヴィンテージのシューズも探していましたが、その中でもPATRICKには特別な魅力がありました。

ー 特にどの部分に惹かれたのでしょうか?
加藤:やっぱり一番は西洋人向けのパターン、足型のところですね。くびれがあって、つま先に向かって低くなっていくフォルム。個人的にこの形とかボリューム感がすごく好きなんです。
当時って靴全体がどんどん膨らんでいく時代だったんですよ。バスケットシューズだったり、ブーツが流行っていたり。でも僕にはPATRICKの方が綺麗に見えていました。モッズのファッションが好きだったこともあって、このフォルムの美しさに惹かれたんです。
あとは色使いですね。いわゆる原色じゃなくて、ヨーロッパらしい中間色のカラーリングがすごく良いなといつも思っていました。今でこそ日本でも色々なところで受け入れられている中間色ですが、当時はそんなに好まれていなかった気がします。柔らかい色使いが当時から本当に好きでした。

ー たしかに、カラーリングに関しては、昔からPATRICKの特色のひとつですね。
加藤:そうですよね。
あとは、黒いソールの靴が多いのも良いなと思っていて。アートイスもマラソンも、黒いソールの靴がある。当時の日本のメーカーさんたちって黒いソールの靴をあまり作らなかったと思うんですよ。「足元軽く」という言葉が蔓延していたというのもあるんでしょうね。

そんな時代背景の中で、足元を軽くするだけじゃなくて、軽薄に見えない靴。そういう意味で、PATRICKは唯一無二でした。今でこそ黒いソールの靴も各ブランドから増えてきましたが、周りのコレクターの友人もやっぱり「ガムソールじゃなくて黒ソールのやつないかな」って言うようになってきて、やっとそういう傾向になってきたなと感じています。

ー 今でも海外での買い付けもされていると思いますが、ヨーロッパでのPATRICKの立ち位置はどのような印象を受けていますか?
加藤:ヨーロッパにいる方で、よくやり取りしているコレクターが言うには、フランスではスポーツブランドとしてのイメージが強いようです。というのも、向こうではファッション性の高い商品って殆ど出ていないんですよね。
ただ、スニーカー好きの人たちや、サッカーからきたファッションをルーツにしている人たちにとっては、まだまだPATRICKは選択肢のひとつではあるんです。特にその要素が強いのがイギリスです。
そんな中で世界中の情報が入手しやすい時代になってきて、フォルムや革質にしても「やっぱりPATRICKいいよね」というのは特にここ最近よく耳にします。ただマニアックな存在であることは間違いないです(笑)

ー イギリスではフーリガンカルチャーとの繋がりもあるようですね。
加藤:ありますね。
あって、Facebook内のヴィンテージスニーカーのグループに入らないかと誘われたことがあって。そこに入ると、メンバーの多くが元フーリガン、または現行のウルトラス(熱烈なフットボール・サポーター)の方々、いわゆるCASUALSで「昔はここで暴れてた」みたいな人もいました。
その中でも家庭を持って落ち着いた人たちが、昔の青春時代の物を集めているといった様子で、年齢層は20代は少なくて、平均は40〜50代。もっと上の方もいました。70代とかだと本当にリアルで”スミス”とか”マッドネス”を見てる世代じゃないですかね。そういうカルチャーが好きで、モノについてのストーリーを知るのが好きなんです。

ー なるほど、こういったリアルな話は現地の方じゃないとわからないですね(笑)
加藤:CASUALSというジャンルの由来は、ウルトラスたちがそれまでのボンバー・ジャケットにブーツという服装だと、スタジアム側から締め出されるため、ミドルクラスの青年たちが着ていそうな上品なスポーツ・ブランドを着てスタジアムに紛れ込むという習性からだそうです。そういった中にPATRICKも選ばれていたようで、80年代はウェアが中心でしたが、近年ではスニーカーも彼らの選択肢の一つになっているイメージがあります。

ー では、日本国内でのPATRICKの立ち位置はどのように見ていますか?
加藤:現代に関して言うと、昔よりもマニアックじゃない人たちにまで行き渡っているという印象はあります。
あと、これは僕のまわりでのイメージですが、独自性というか、自分の価値観をしっかり持っている人が選ぶ靴という感じでした。
特定のモデルをずっと愛用する、愛されているブランドなんだなと感じていました。
ただ面白いのが、みんな好きなモデルはバラバラなんです。
色々なPATRICK好きな人と話をしていても、好きなモデルがみんな全然違うんです。
そういえば昔、関西でたまたま立ち寄ったお店のご主人が「僕はマラソン一択です」って言うんですよ。僕は「ディーン」とか「ベリー」が好きなので、途中で話が噛み合わなくなってきて(笑)でも、その人たちはランニングブームの時代に最初に見た靴だから、「マラソン」への愛情が深いんですよね。
一人ひとりの愛情はものすごく深いんですけど、あまり他のモデルには行かない。なので、それがアイコン不在の理由なんじゃないかなとは思います(苦笑)

ー 仰る通りかもしれません(笑)でもたしかに、昔からPATRICKはモデル数が多いのも特長ですね。
加藤:そうですよね、なので分かれてるのかもしれませんね(笑)
あと、みんな天邪鬼だと思います(笑)人気が出すぎてほしくないと思っている。みんなが履いてしまったら嫌だという気持ちもある。でもそれってブランドとしてはまずいじゃないですか。どうしたらいいんだろう...って僕が考えることじゃないですけど勝手に心配しています(笑)
もっと売れてほしい、でも嫌だ、みたいな。そういうすごく良い愛好家が多いというイメージは、ずっと変わらないですね。

ー ちなみに、なにか復刻したいモデルはありますか?
加藤:Keegan Kingですね!シグネチャーモデルなので、そのままの復刻は難しくても、あのアッパーとオリジナルのブラックソールの組み合わせは是非お願いしたいです。
あとは出してほしいカラーリングもたくさんあって(笑)例えば、カーキやオリーブ系で黒ソールのモデル。ベリーやディーン系でそういうカラーが出たら、海外からの反応も大きいと思います。あとは、ハーレムもいいですよね。カーキのメッシュと黒ソールの組み合わせとか。渋いカラーリングを期待しております!

ー 最後に、加藤さんにとってPATRICKとはどのような存在でしょうか?
加藤:カルチャーを知るための入り口ですね。本業の写真撮影も、この販売も、モノについてのストーリーやエピソードを知るための手段です。PATRICKはかつてのモデル、生産国、販売網で未知の領域が多いので、今後の出会いが本当に楽しみなんです。先程もお話いたしましたが、PATRICKは自分の価値観をしっかり持っている人が選ぶ靴。
フォルムの美しさ、独特の色使い...そういう細部にこだわりがあって、それを理解する人たちが愛用している。30年以上追い続けてきましたが、その魅力は全く色褪せません。そんな古くからの魅力を見事に具現化されているPATRICK ORIGINシリーズの今後の展開を本当に楽しみにしております。
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