BON VOYAGE
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ボンボヤージュ パトリックの歴史と文化

フローラン・ダバディさんが聞く
それぞれが出来る持続可能なこと
【解釈編】

フローラン・ダバディ氏

それぞれが出来る持続可能なこと 1. 持続可能について考える

スポーツキャスターをはじめ、多方面で活躍しているフローラン・ダバディさんをお招きし、フランス文化や日本文化に触れ合う旅へご案内する「BON VOYAGE」。今回はダバディさんとデザイナーの伊澤良樹さんにお互いが思う持続可能なことについての対談【解釈編】をお届けします。

フローラン・ダバディ氏

今世界では共通して自然保護や差別のない環境づくりなど、さまざまな持続可能なことに取り組んでいます。しかし国並びに人によって考え方、出来ることは異なるところ。そこで東京在住のフランス人のダバディさん、熊本に移住した日本人の伊澤さんの出身や環境が違う2人にこの議題についてディスカッションを敢行しました。それぞれの思いを紐解くことで、自分たちでも出来る持続可能なことへのヒントを見つけてみましょう。

それぞれが出来る持続可能なこと 2. 被災を通して知った気付き

フローラン・ダバディ氏

フローラン・ダバディさん(以下ダバディさん):はじめまして、フローラン・ダバディです。今日は国籍や住む環境も違う私たちでそれぞれが出来る持続可能なことについて話してみたいと思います。

伊澤良樹さん(以下伊澤さん):はじめまして、伊澤です。こちらこそ宜しくお願いします!

ダバディさん:では、まず簡単な自己紹介から。私は1992年に来日し、静岡大学に進学。そのとき青春18切符で熊本や大分を旅したのが今でも思い出深いです。今はキャスターやナビゲーターなどをしながら、東京に住んでいます。

伊澤さん:僕は東京都の渋谷生まれ、三鷹育ち。地域や企業ブランドのディレクションやグラフィック、プロダクトなど幅広い領域でデザイナーとして活動中です。2016年の独立を機に熊本県阿蘇小国町という人口6000人ぐらいの小さな町に移住しました。

フローラン・ダバディ氏

ダバディさん:生まれも育ちもずっと東京を拠点にしてきた伊澤さんはなぜ熊本に移住をされたんですか?

伊澤さん:色々な理由はあるのですが、「気付いたらこの場所にいた。」という感覚が正しいかもしれません。独立をして拠点を探すときに東京という選択肢に興味はなくて、東京とは真逆の環境に自分を置くことで新しい感覚が目覚めることに興味がありました。それで拠点探しの際に 水が綺麗な場所を探していたら阿蘇を見つけたんです。阿蘇は縁もゆかりもない場所でしたが、子供たちが虫や石などで夢中になって遊ぶ姿を見たときに、都会の遊具で遊んでいた表情とは全く違う表情をしていて、まるで自然と一体になっているみたいでした。子供たちに自然の感覚を伝えられる環境の中で生活するのは阿蘇に移住した大きな理由の一つですね。

ダバディさん:とても素敵なストーリーですね。今世界では自然保護のためにさまざまな活動が見直されていますが、同時に必要なのは子供たちへの教育かも知れませんね。子供の頃から自然環境に身を置くことで自然のことはもちろん、地球の未来についての考え方にもつながっていきそうですし。こうした子供たちへの気持ちを育むことも持続可能な一つとして捉えてもいい気がしますね。

伊澤さん:ありがとうございます。僕もそう思っています。目に見える具体的な活動だけが持続可能なことではないのかなと。そんな取り組みが出来るのも移住してよかったと思える点ですね。あと熊本は地震や豪雨の被災地でもあることから、実際に現地を目の当たりにしたことでたくさんの気付きがあり、僕の考えの変化にも繋がりました。

フローラン・ダバディ氏

ダバディさん:2016年の震災はとても胸が痛くなる出来事ですよね。被災地では実際どのような気付きがあったのですか?

伊澤さん:2016年の熊本地震の時は東京にいて熊本に行く準備をしていました。被災地が心配で震災から少し時間が経った後に小国町に行ってみると、小国町は他の地域よりも地震の被害は少なかったのですが住民の方に話を聞いてみると、「どの家に誰が住んでいるか把握しているので一人で住んでいる高齢者や困っている家庭の対応なども早く、水や食料に関しては湧水があるし、農作物の蓄えもあるから大丈夫。」僕はそれを聞いて自然災害への対応力と地域の共同体の強さを小国町で実感しました。

ダバディさん:地方ならではの意外な実情ですね。もし東京で同じような震災が起こったら大パニックは必至。それは自国のパリでも同じだと思います。でも大事なのはそのときにどんな行動するかだと思いますね。

伊澤さん:僕が住んでいるような中山間地域は都市部よりもインフラも整備されていないし、自然災害が多い地域です。災害があると外からの助けを待つよりは自分達で助け合って対応しなければ生きていけない。僕は3.11のときには東京にいましたがスーパーでの買い占めなどで、お金があっても食料や水が買えない日々がありました。自然災害を通して地方と都市を見てみると都市は自助、地方は共助の差がはっきり見えてきます。

フローラン・ダバディ氏

ダバディさん:悲しいことですよね。今パリでも同じようなことが起きていて、エッフェル搭はここ数年間まともに見える日がないんです。空気汚染がひどくて。そこで市長が2030年までにパリ中心部での車の廃止を掲げたのですが、それが支持率を落としてしまう結果に。みんな自分のライフスタイルを犠牲にするぐらいなら、自然を汚す方がいいというのがほとんど。残念なことにこうした目先の生活を確保することが世界の都市では多く見られていますね。

伊澤さん:都市と地方では時間軸が違うのかもしれません。都市は半年、1年、長くて5年の先を見て設計していく。地方は先祖から受け継いできた風土を次の世代に渡していく時間軸なので100年、1000年という長い時間で設計していく必要があります。僕は拠点を阿蘇にしたことによって限られた資源を後世に残す重要性に気づき、それこそが持続可能な社会の本質ではないかと思うようになりました。

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プロフィール

フローラン・ダバディ Florent Dabadie
1974年、パリ生まれ。フランス国立東洋言語文化学院で日本語を学び、渡日して映画雑誌『プレミア日本版』の編集に携わる。1998年〜2002年サッカー日本代表監督フィリップ・トルシエ氏の通訳・アシスタントを務め、現在はWOWWOWのテニス番組のナビゲーターやフランスサッカーリーグの解説といった幅広いフィールドで活躍中。

http://dabadie.tv/
https://www.instagram.com/florent_dabadie/

             
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プロフィール

伊澤良樹
クリエイティブディレクター / デザイナー
1978年東京都生まれ。コム デ ギャルソン、ウォルト・ディズニー・ジャパンのデザイナーを経て、2016年に拠点を阿蘇に移し東京と九州の2拠点で活動をスタート。地域や企業のブランドイメージの設計から運用に至るまでのトータルディレクションとデザインを手掛ける。主な仕事に東宝「ゴジラ」の海外国内向けブランド構築のクリエイティブディレクション、スタジオ地図10周年事業のクリエイティブディレクション、小国町森林組合のブランド戦略の企画・デザイン、阿蘇小国ジャージ牛乳パッケージデザインなど。