UMINOKUTSU 対談企画 後編 「海と森は繋がっている。これからは見直していく時代。」
220代目漁師 千葉豪さん (岩手県大船渡市)
伊澤:なぜ漁師になったのか教えてもらえますか?
千葉:世襲といえば世襲なんだけど特別、家を継がないといけないとかはなかったですね。この地域が好きで、小さい頃からこの地域で何かしたいという思いがありました。地元で過去の有名な水産業の実業家で「水上助三郎」さんという方がいて、小学校に銅像があったりする人なんだけども、その人が世界でも活躍していたそうで、(自分も)田舎にいても誇りを持って活躍できるんだということをやりたかったですね。
伊澤:ちなみに(名刺にある)漁師220代目って何ですか?笑
千葉:この辺りで縄文時代のマグロの骨が出てきて、それが約5500年前で、現役を25年とすると220代に。ここの人達は昔から海と一緒に生活してきたから、その時代から魚取って生活してきてるんだよという意味合いで。
伊澤:そうすると随分小さな頃からこの地域で何かをしたいと決めていたんですね。でも漁師になるというのは明確に決まっていなかったということですか?
千葉:全く決まってはいなかったですね。この辺りはみんな卒業したら出ていく人が多いので、地域のことをできるのは俺ぐらいしかいないって勝手に思っていた。さっき言った水上助三郎さんが10代で東京に行って、お金を作って25歳くらいで戻ってきて水産事業を起こしたということがあって、俺も一度東京に出たんだけどセンスが無くて。笑
戻ってきてから東京で学んだインターネットの知識を使って海産物のWeb販売を始めたんだけど、実際に始めてみると結構大変で、例えばわかめを売るにしても、このわかめは何が違うんですか?どういったところが良いんですか?って他との違いを聞かれても答えられなくて。ただ「美味しいよ。良いわかめだよ。」としか説明できないのが悔しくて、商品のことをきちんと勉強してやらないとダメだなと思い、そこから漁業の現場である家の仕事をやり出したらなんとなく面白くて。
伊澤:これ面白いって思った瞬間は最初?1回目の漁からですか?
千葉:1回目からではないですね。最初は新しいことばかりという意味では面白かったけど、結局指示されたり、作業的なことばかりだったのですぐ飽きちゃいましたね。自分で駆け引きができるようになってから面白さが増していきました。漁というのは、海という自然が相手だから毎年違うんですよ。例えばわかめといっても、決まった時期に決まった水温になるわけじゃないので、2月の今(取材時)は6.3度くらいですけど、2月だから毎年6.3度の水がくるわけじゃなくて、去年はずっと8度だったし、その前の年はもう少し下がったし、その前の年はマイナス1度くらいまで下がったので。水温だけ見ても毎年違うので、同じ年がないというか。去年上手くいったやり方が、今年は正解じゃないから、もしかするとこうかもしれないなって予測しなければならない面白さがあるんです。
伊澤:その駆け引きが上手くいったこと、いかなかったことはありましたか?
千葉:あります。もちろん。最初は父親もそうだし周りの人たちのやり方を聞いたり、参考にして真似したりしてたから、「いつから上手くいきましたか?」って聞かれたら最初から上手くはいっているんだけど、もちろんうまくいかない時も。今でもいろんな人の話を聞いてやってますね。
伊澤:今回は、ただ単にエコ素材を使ってサステナブルなスニーカーを作りましたということではなく、靴を媒体として、海洋プラスティックごみの問題をこの靴を通して一人でも多くの人に伝えられたらなっていう思いが込められています。サスティナブルな話をPATRICKに置き換えると、PATRICKは姫路の靴職人が長く履ける品質にこだわって作っていて、スニーカーとしては珍しく、ソールの張り替え対応も昔からやっているんです。(張り替え対象アイテムのみ)セールもせず、流通もコントロールしながら過剰な生産をしないようにしています。
千葉:こんなこと言うとなんだけど、年寄りの人と船に乗ると普通にゴミを捨てる。ラーメン食ってそのまま海に投げるし、ロープ結んで端を切ったらそのまま海に捨てる。それは昔、ゴミを回収する環境が整っていなくて、ゴミは海に捨てるっていうことが実際にあった。貝塚もそうでしょ。。縄文時代の話かもしれないけど。それが昭和の終わり、平成ぐらいまでやっていたんじゃないかな。以前はシーグラスという綺麗な宝石みたいなのが海岸によく落ちていて、子供とかが集めたりしていたんです。そのガラスが砂とかで削られて丸く綺麗になった状態であって、元をたどれば瓶の不法投棄なんです。でもそのシーグラスも最近は見なくなったんですけど、それはゴミが減ったわけではなく、ゴミの種類が瓶からペットボトルに代わってきただけなんです。そうやって捨てるのが当たり前でみんな普通に捨てていた頃があったのは確かで、そういう時代があったけど遡って清算していく人が必要だと思うから。「海洋プラゴミを自分たちの時代に回収する」「気が付いたらやる」ってこれからの世代の人がやることなんだと思います。
伊澤:森と海は繋がっていると聞きますが、漁師さんとしてそれを感じることはありますか?
千葉:さっき話に出てきた「水上助三郎」の話なんだけど、その人は「漁師は海で稼いだら、木を植えなきゃだめだよ」ってことを言っていたそうで、不漁の時は木を売って、豊漁の時は木を植えて保険っていうか安定して回していこうって。60年くらい前に木材の自由化になる前は木に良い値段がついていたから良かったが、値段が安くなってからは売れなくなり、皆手入れもしなくなっていわゆる死の森みたいなのが増えてきている。元々はお金のためだったから仕方がないですが。針葉樹ではなく広葉樹の葉が落ちて腐葉土になったときに、鉄分が流れても海藻に吸収できる状態にするには鉄が細かく分解されるのが必要で、山の葉っぱだったら、フルボ酸と鉄が結合してフルボ酸鉄の状態になって流れて行くと海藻が吸収できるようになる。ただ鉄の塊を海に沈めたって、それが海藻の栄養になるってわけじゃない。海藻の栄養の一つが広葉樹の葉っぱからの腐葉土でできるから。その海藻が結局は魚も、また他の生物、ウニ、アワビにしたって基本の栄養分で、小さい魚が海藻に住んだり卵産んだり、それを餌に大きい魚が来る。そのことからも森の重要性は感じます。
伊澤:ということは実際森を豊かにすれば海の幸が増えたり、きれいになったりすることがあると感じるんですね。
千葉:針葉樹でも広葉樹でも、管理しなくなった森の下の粘土みたいなクレーが酸欠の水の原因になっていて、その酸欠の水が山から海に行ったときに、本来は抜け落ちた海藻や、死んだ魚等の有機物を分解するバクテリアの酸素があると有機物を健全に分解できるんだけど、酸素が無いと嫌気性分解になってしまうんです。ぬか床を毎日かき回して酸素あげていると、それは好気性分解で美味しい漬物になるけど、それサボって酸素を入れなくなると嫌気性分解が進んで腐る。それが海の中でも同じような状態になるから、嫌気性分解が進むとヘドロになったり、硫化水素とかメタンが発生するようになる。硫化水素が海に出ると貝とか死んでしまう。貝の死滅が原因不明っていっているのは、もしかすると酸欠の水かもしれないって思う。
伊澤:これから何か森/山での活動する考えがありますか?
千葉:山の活動をやりたいと思っていて、どうやってやったらいいか色々な人に聞いています。山に手を入れなくなったのは60年前からで海の資源量が右肩下がりにもなっているのも60年前から。単に川から腐葉土が流れてくるっていうのが全てだったら、その大きい川の河口に海藻あるかっていうかというと、そこには海藻があるわけじゃない。逆に川が来ているわけじゃないのに海藻がいっぱいあるところもある。原因は色々言われているけども、管理されていない山から”酸欠の水”が流れてきていると推測した方が実際に自分が見てきた経験と合うんですよね。
伊澤:今回、森林組合さんとも話したときに「やっと海と繋がった!」って喜んでいて。繋がっているんですよね。っていう話しをしていました。現在、人間が作り出した人工物の総重量と、地球上の生物の総重量が現在ほぼ同じになっている。このまま行くと2040年には人工物が倍になると言われています。
千葉:昔からウニがいて海藻があって、いいバランスでやってきたのに、何でこんな最近になってバランス崩れたのかなって思うのは、漁港のコンクリートだと思う。ウニ、コンクリートを食べるんですよ。コンクリートのセメントの中にあるカルシウムを。だから海藻がなくても生きられる。ウニは本当は海藻なくなって死ぬやつが生きちゃってるのかなって思う。あとは温暖化もコンクリートのせいだと思う。気温40〜50℃の砂漠のところで海水温が35℃あります、みたいな国があるんだけど、そこの海岸沿いだけ海水温が30℃切るところもあって。気温も高いし、海水温も高いのに、そこだけなんで海水温が下がるのって。それは気化熱なんだって。蒸発する時に熱を奪っていくから水温が下がるらしい。それが全部コンクリートで覆ってしまうとそれをするところがなくなる。海岸線全部コンクリートにしたでしょ。こんな田舎だったらまだ残っているけど。「震災10年どうでしたか?」と聞かれることが多いけど、それは作ってきた10年だったから、11年目から誰かが清算していく人が必要かなって思う。漁港もそうで、海が荒れるから船を守る、家を守る、地区を守るってところから防潮堤で囲ったり。針葉樹植えるのもそうだし、良くしようと思って、良かれと思ってやってきたものが全部正しいってわけじゃないから。例えば、木を切って間伐してもそれがプラスになる、収入上がるってわけじゃないけど、誰かがやらなきゃダメだからそういうのをやっていきたいなと思います。
伊澤:千葉さん、とても貴重なお話し有り難うございました。
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